従業員の雇用

創業と保険制度

法人を設立して労働者を雇い入れるようになれば、労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金)の保険制度を整備する必要がでてきます。また、個人事業であっても、同様に労働保険は必要であり、一定の規模や業種によっては、社会保険の整備も必要になります。労働者に賃金を支払い、それに対して労務の提供を受けるようになれば労働契約が成立し、事業主と労働者の間には一定の権利・義務が発生します。このことは一般の営利企業だけでなく、非営利法人であっても同じです。

保険制度の仕組み

労災保険

Ⅰ 労災保険とは

労災保険制度は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡等に対して必要な保険給付を行い、あわせて、被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者とその遺族の援護、労働災害の防止等を目的とする労働福祉事業を行う総合的な保険制度です。

Ⅱ 加入対象者

労働者であれば、常用、臨時雇い、日雇、パートタイマー、アルバイト(学生アルバイト含む)などの雇用形態や呼称には関係なく、また外国人であっても、労災保険の対象者になります。一日だけ働きにくるようなアルバイトでも労災保険の対象者となります。

Ⅲ 適用事業所

Ⅱからもわかるように、労働者を一人でも雇い入れる事業所ならば労災保険に加入する義務が生じます。

Ⅳ 保険料

労災保険の保険料は、事業内容の危険度合に応じて保険料率が区分されており、事業所の職種に該当する労災保険料率に賃金総額(毎年4月~翌年3月までの合計)を乗じて算出します。保険料の支払いは全額法人負担となります。

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何を
「保険関係成立届」
「労働保険概算保険料申告書」
どこに
事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
いつまでに
労働者を使用した日から10日以内
保険料納付は労働者を使用した日の翌日から50日以内
通年事務
毎年6月から7月10日頃までに「労働保険料概算・確定申告書」を提出します。

Ⅴ 中小事業主の特別加入

労災保険の対象者は、前述のとおり労働者です。従って、事業主は、仕事中に発生した事故や災害による病気やケガ等について、労災保険の対象とはなりません。そこで事業主が現場などに出る機会の多い中小企業の事業主を労災保険の対象にするために、特別加入の制度が設けられています。

特別加入するための要件

  1. その事業について労災保険の保険関係が成立していること
  2. 従業員が原則300人以下(業種により違います)の事業所であること
  3. 労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託していること
  4. 中小事業主及び家族従事者、役員等すべてを包括して加入すること

雇用保険

Ⅰ 雇用保険とは

労働者が失業した場合及び雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに求職活動を容易にするなど、その就職を促進することを目的としています。

Ⅱ 被保険者

1週間の労働時間が20時間以上となる労働者は、原則として加入義務が発生します。これには、パート、アルバイトなどの区別は無く、外国人であっても対象となり、加入するかどうかを任意に選択することもできません。

Ⅲ 適用事業所

Ⅱの対象者がいる事業所は、5人未満の農林水産業の個人経営の事業所を除き、適用事業所となります。

Ⅳ 保険料

雇用保険料の保険料は、労災保険と同じく賃金に雇用保険料率を乗じて算出しますが、労災保険と違い、労働者負担分(賃金から控除)があります。
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何を
「雇用保険適用事業所設置届」
どこに
事業所の所在地を管轄する公共職業安定所
いつまでに
労働者を使用した日から10日以内
保険料納付は労働者を使用した日の翌日から50日以内
被保険者資格取得届
翌月10日までに届出
被保険者資格喪失届
退職日の翌日から10日以内
通年事務
毎年6月から7月10日頃までに「労働保険料概算・確定申告書」を提出します。

健康保険

Ⅰ 健康保険とは

健康保険は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とします。

Ⅱ 被保険者

一般労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く労働者は、原則として加入義務が発生してきます。これには、パート、アルバイトなどの区別は無く、外国人であっても対象となり、加入するかどうかを任意に選択することもできません。従って、昼間学生のアルバイトの方であっても、一般労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く勤務形態の場合は、原則として加入義務があります。さらに、労働者501人以上の同一事業主で週20時間以上の短時間労働者(パートタイマー)は加入対象になる場合があります。
また、健康保険は労働保険と違って、社長でも役員でも「事業所に使用される者」として、労働者と同様に、強制的に加入する義務が発生します。

Ⅲ 被扶養者

健康保険の場合は、被保険者のみならず、被扶養者(一定の要件を満たす家族)も制度の対象になります。

Ⅳ 適用事業所

健康保険の場合は、Ⅱの対象者がいるからといって、全ての事業所が適用事業所になるわけではありません。
強制適用事業所となるのは、法人と一般の事業(法定16業種)のうち、常時使用される労働者が5人以上の事業所です。従って、一般事業(法定16業種)のうち常時使用される労働者が5人未満の事業所や、法定16業種外の事業所は任意加入の事業所になります。

区分 従業員数 法定16業種 法定16業種以外
個人 5人未満   任意適用
5人以上 強制適用
法人 従業員数問わず

法定16業種以外の事業とは以下になります。

  1. 農林水産業
  2. サービス業(旅館、料理店、飲食店等の接客娯楽業)
  3. 法務業(弁護士、社会保険労務士等)
  4. 宗教(神社、寺院、教会等) 等

Ⅴ 保険料

健康保険(全国健康保険協会(協会けんぽ))の保険料は、被保険者の賃金額に応じて標準報酬月額を決定し、その標準報酬月額に都道府県別の保険料率を乗じた額になります。その内の半額については、被保険者負担(賃金から控除)となります。

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何を
「新規適用届」
どこに
事業所の所在地を管轄する年金事務所
いつまでに
適用事業所になってから5日以内
保険料納付は労働者を使用した日の翌月末日まで
被保険者資格取得届
事実発生の日から5日以内
被保険者資格喪失届
事実発生の日から5日以内
被扶養者異動届
事実発生の日から5日以内

厚生年金保険

Ⅰ 厚生年金保険とは

厚生年金保険は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とします。

Ⅱ 被保険者

一般労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く70歳未満の労働者は、原則として加入義務が発生します。これには、パート、アルバイトなどの区別は無く、外国人があっても対象者となり、加入するかどうかを任意に選択することもできません。従って、昼間学生のアルバイトの方であっても、一般労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く勤務形態の場合は原則として加入義務があります。さらに、労働者501人以上の同一の事業主で週20時間以上の短時間労働者(パートタイマー)は加入対象になる場合があります。
また、厚生年金は労働保険と違って、社長でも役員でも「事業所に使用される者」として、労働者と同様に、強制的に加入する義務が発生します。

Ⅲ 適用事業所

厚生年金の場合は、Ⅱの対象者がいるからといって、全ての事業所が適用事業所になるわけではありません。
 強制適用事業所となるのは、法人と一般の事業(法定16業種)のうち、常時使用される労働者が5人以上の事業所です。従って、一般事業(法定16業種)のうち、常時使用される労働者が5人未満の事業所や、法定16業種外の事業所は任意加入の事業所になります。

区分 従業員数 法定16業種 法定16業種以外
個人 5人未満   任意適用
5人以上 強制適用
法人 従業員数問わず

法定16業種以外の事業とは以下になります。

  1. 農林水産業
  2. サービス業(旅館、料理店、飲食店等の接客娯楽業)
  3. 法務業(弁護士、社会保険労務士等)
  4. 宗教(神社、寺院、教会等) 等

Ⅳ 保険料

厚生年金の保険料は、労働者の賃金額に応じて標準報酬月額を決定し、その標準報酬月額に保険料率(18.3%)を乗じた額になります。その内の半額については、被保険者負担(賃金から控除)となります。

何を
「新規適用届」
どこに
事業所の所在地を管轄する年金事務所
いつまでに
適用事業所になってから5日以内
保険料納付は労働者を使用した日の翌月末日まで
被保険者資格取得届
事実発生の日から5日以内
被保険者資格喪失届
事実発生の日から5日以内
被扶養者異動届
事実発生の日から5日以内

労働基準法

労働基準法は、使用者が労働者を使用する際の最低条件を定め、労働者の保護を目的としています。

Ⅰ 労働時間・休憩・休日

長時間労働の弊害をなくすため、所定労働時間の最長限度を定めており、使用者は、労働者に休憩時間を除いて1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合には45分、8時間を超える場合には60分必要になります。また、使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1日、または4週を通じて4日以上の休日を与えなければいけません。
なお、所定時間を超える時間外労働や休日労働は、通常の会社等を経営する際は必ずといっていいほど発生するものですが、労働者に時間外労働・休日労働をしてもらうためには「時間外労働・休日労働に関する協定届」(通称36協定)を労働基準監督署に提出しておくことが必要になります。

何を
「時間外労働・休日労働に関する協定届」
どこに
事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
いつまでに
協定成立後、遅滞無く

Ⅱ 割増賃金

時間外、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働させた場合には、2割5分以上、法定休日に労働させた場合には3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。

Ⅲ 年次有給休暇

年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、労働日の8割以上出勤した労働者に対して、最低10日を与えなければなりません。

勤続年数
1年 2年 3年 4年 5年 6年
6か月 6か月 6か月 6か月 6か月 6か月 6か月
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

また、勤務時間・日数の少ないパート、アルバイト等でも、6ヶ月の継続勤務と全労働日の8割出勤によって、1週間・1年間の労働日数に比例した日数の年次有給休暇が発生します。

短時間労働者の 勤続年数
週所定
労働時間
週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
6か月 1年
6か月
2年
6か月
3年
6か月
4年
6か月
5年
6か月
6年
6か月
30時間以上 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日
30時間
未満
5日 217日以上
4日 216~169日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 168~121日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 120~73日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 72~48日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

年次有給休暇については、時季指定権と時季変更権という権利があります。

時季指定権

労働者が、継続又は分割した有給休暇を取得する時季を指定する権利。

時季変更権

使用者が、労働者の時季指定権に対して、業務の正常な運営を妨げる場合のみ、時季を変更することができる権利。

年次有給休暇5日の取得義務
年次有給休暇の日数が10日以上の労働者に対して、そのうちの5日については、基準日から1年以内に以下の方法により与えなければならないとされています。
  1. 労働者本人の時季指定による取得
  2. 労使協定締結による計画的付与
  3. 労働者本人の希望を聞いたうえでの使用者による時季指定

ポイント

事業主側の時季変更権は、「労働者の人数が少ないので、その人が休むと事業の運営に支障がでる」という理由では「正常な事業の運営を妨げる場合」とは認められません。 年次有給休暇を取れる体制づくりを日頃から整えておくことが必要です。

Ⅳ 労働条件明示書

使用者は労働者を雇い入れた時には、労働条件のうち、重要な項目については労働条件明示書(書面)で明示する必要があります。

絶対的明示事項(必ず明示する義務あり)

  1. 労働契約の期間に関する事項(期間の定めのある場合は更新の有無やその判断基準等)
  2. 就業場所、従事すべき業務に関する事項
  3. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業転換に関する事項
  4. 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切及び支払の時期、昇給に関する事項
  5. 退職に関する事項(解雇の事由含む)

相対的明示事項(定めをすれば明示する義務有り)

  1. 退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等、最低賃金額に関する事項
  2. 労働者に負担させるべき食費、作業用品などに関する事項
  3. 安全及び衛生に関する事項
  4. 職業訓練に関する事項
  5. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  6. 表彰及び制裁に関する事項
  7. 休職に関する事項

Ⅴ 就業規則(10人以上の労働者を使用する事業所には作成・届出義務有り)

就業規則も労働者に対して労働条件を明示するものですが、労働条件明示書との違いは、原則として事業所で働くすべての労働者に共通する労働条件を明示するという点です。

絶対的必要記載事項

  1. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業転換に関する事項
  2. 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切及び支払の時期、昇給に関する事項
  3. 退職に関する事項(解雇の事由含む)

相対的明示事項(定めをすれば明示する義務有り)

  1. 退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等、最低賃金額に関する事項
  2. 労働者に負担させるべき食費、作業用品などに関する事項
  3. 安全及び衛生に関する事項
  4. 職業訓練に関する事項
  5. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  6. 表彰及び制裁に関する事項
  7. 前記のほか、労働者の全てに適用される定めを置く場合は、その事項

Ⅵ 解雇について

解雇をめぐっては、トラブルになる場合が多く、その防止・解決を図るには、解雇に関する基本的なルールを明確にすることが必要となりました。このため、労働基準法から移行する形で、「労働契約法」により、次のように明文化されました。

労働契約法第16条

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

解雇権濫用と立証責任

「解雇権の濫用」が行使された場合の立証責任は、現在の裁判上の実務では使用者に負わされています。
解りやすくいいますと、労働者側から解雇について「不当解雇」だと訴えられた場合には、不当解雇ではないことを証明するのは事業主側であって、立証できないような解雇は「解雇権の濫用」にあたるという事です。

労働条件明示書・就業規則への記載

事業主は、解雇について事前の予測可能性を高めるため、労働条件明示書(労働条件通知書)・就業規則に、あらかじめ、どういった場合に解雇になるかを明示することが義務付けられています。

その他

Ⅰ 労務管理について

1 賃金の決定方法

  • 最低賃金は守られているか
  • 残業時間を込みで基本給を設定していないか
  • 社会保険料も含めて人件費を考えているか

2 勤務時間管理

  • 出勤・欠勤だけでなく、始業時間、就業時間、休憩時間といった時間管理が必要

Ⅱ 助成金・奨励金について

助成金・奨励金は返済不要であり、人の採用や法律を上回る労働条件の整備などをすることによってもらえることがあります。いずれも申請に基づいて支給されるもので、助成金・奨励金によっては、事前に計画書提出が必要なものがあります。
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